26/09/2015 14:30 @Pit, Barbican
自分自身がトゥレット症候群にかかっているJess Thomが主催する、Tourettesheroの公演。
非常に力強く、したたかで、かつ、暖かく聴衆全員を包み込む、素晴らしい舞台だった。
開演前、舞台上には女優一人が車いすに座り、ハムレットを読んでいる。下手に手話通訳。
下手パネルの裏に、「ひざまづいている」女性がいて、絶えず舞台上の女優にヤジというか、メッセージというか、を飛ばしている。
ちなみに、バービカンの最も下の下位に位置するPIT、その天井の10メートルぐらい上では、今まさにベネディクト・カンバーバッチのハムレットが上演中である。
開演すると、女優は立ち上がって後ろに下がり、下手にいた女性が膝をついたまま中央に出てきて、車いすに座る。それがJess Thom本人。
60分間の公演中に語られることは、彼女の病気について、子供の頃からの彼女の病気の進行について、
彼女が芝居を観に行ったときの出来事について、彼女が芝居を始めることになったきっかけについて、
冗談早押しクイズ大会をはさんで、
共演の女優がどうしてJess Thomと一緒に公演をしようと考えるようになったのか、そのきっかけについて。
語られる話自体は実話で、だから、この公演も、芝居というよりも、パフォーマンスと呼んだ方が良いのかもしれない。
でもね、これは、演劇でした。力強く、演劇でした。
障害者の支援をアピールする講演会ではなくて、障害者も健常者もなく、劇場という場を支えるしたたかな計算が、確かにそこにあった。
Jess Thomはトゥレット症候群の患者である。
チックの重いものだと考えると良いと思う。
Jessは1日に16,000回、Biscuitという言葉を発する。時としてCatっていう言葉だったりする。もっと下卑た言葉だったりする。
Jessは5秒に1度くらい、自分の胸の真ん中、鎖骨の繋がっている辺りを、自分の右の拳で殴る。放っておくと拳の骨が砕けるので、クッションになる手袋を嵌めている。
Jessは歩けない。歩こうとすると、脚が不随意に動いて、2、3歩で転ぶ。だから車椅子が要る。
Jessが皿に盛ったイチゴを右手で食べようとすると、彼女の右手はイチゴを掴んで彼女自身の顔に思い切りぶつけ、すりつぶす。彼女からはイチゴの匂いがしてくる。
トゥレット症候群は、頭の病気ではなくて、神経の病気である。だから、Jessの知的能力や意思の力には病気は及んでいない。
ただ、口から出てくる言葉や、手足の動きが、自分でコントロールできない時がある、っていうことである。それも、24時間。
Jessは公演前に「公演中に発作が出たら一旦引っ込まなきゃならないので、その時はしばらく待ってて下さい。相棒のChopinが繋ぎます」と断りを入れる。
この日の14時半の公演では発作は出なかった。
Jessがどんなに可哀想な人かを説明するために上のことを書いたのではない。
上記を前提した上で、Tourettesheroが、60分の公演をどのようにエンターテイニングなものにするかをきちんと考えて、そして面白くなっていた、という素晴らしいことについて書きたかったのです。
Jessの語ることにはテーマがあって、それは、Inclusion「包摂、かな?」ということだと、僕は思う。
他人を排除せずに、懐広く、色んなものを共有する態度。
それは、彼女の経験を元にして語れるっていう面もあれば、より重要なことに、彼女の周囲の人がどのようにしてJessのムーヴメントに取り込まれていくのか、っていうプロセスの話でもある。聴衆の態度でもある。
で、それが、パフォーマンスの間のステージの(客席への)開き方に強く表れていた。
こういう語りのパフォーマンスで、日本人が一人で座っていると、パフォーマーは目を合わそうとしない傾向がある。
どこまで自分の言葉が分かってもらえてるかに自信がないとか、表情が読めないとか、色んな理由があると思う。
が、この舞台の2人組には、そういう垣根一切無し。誰に対しても、一切無し。
日本でそういう強さを持った舞台って、僕がこれまで見た限りでは、うーん、快快、あなざーわーくす、東京デスロック、だろうか。
例えば、あなざーわーくすの凄みは、その「細やかさ」にあるとすると、
Tourettosheroの凄みは、その、あけすけなオープンさと、それでも舞台上の空間を壊させない力強さにある。
ここまで開いても、舞台って壊れないんだ!という驚き。
その要因には、もちろん、JessとChopinのキャラクター、強さもあるんだろうけれど、加えて、プロダクション自体が持つユーモア、問いかけ、「お涙ちょうだい」を自らに許さない力強さと甘えのなさ、ポジティブさ。
そういうの、すべてひっくるめて、本当に素晴らしい60分だった。
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