2016年9月13日火曜日

Us / Them (Edinburgh Festival Fringe 2016)

24/08/2016 10:00 @Summerhall

今年のエディンバラ・フェスティバル・フリンジで、おそらく、GuardianからTelegraphまで、最も評価が高かった作品の一つ。
そうであることが頷ける、質の高い、切り口の鋭い、キッツい芝居だった。

ほぼ素舞台の舞台奥には様々な子供用ジャケット(小さなものから大きなものまで)が掛けられている。
若い男女の役者2人がほぼ素舞台の舞台上に登場。チョークで学校の見取り図を描いていく。二人はどうやら中学生のようだ。数字が得意な男の子と記憶は定かでないけれども明朗快活な女の子。二人は見取り図を描きながら、学校の様子を説明していく。町の様子、学校の様子、父兄の暮らし、出入り口、体育館の様子、朝礼で脱水症状で倒れたときの友達の様子。
どうやらロシアの小さな地方都市の学校であるということが分かってくる。朝礼でロシア風の歌を元気よく歌い出す。
そしてテロリストが校内に乱入する。

二人が説明してきた場所が、2004年9月、残暑の厳しい、北オセチアの町ベスランであることが判明する。この物語は、チェチェン独立派によって学校が占拠された実在の事件を、舞台上の2人が思い出しながら語る、という形を取る。舞台上の男女の若い役者は、始終、子供目線での語り続ける。2004年から12年経って、当時12歳だったとすれば今24歳か・・・と、そんな整合性をぼんやりと考えながら観る。

バスケットボールのコートがやっと一面とれるほどの空調の効かない体育館に、小学生から高校生までの子供と出迎えの父兄、赤ん坊も含めて約1000人が押し込まれ、真ん中には「振動すると爆発する爆弾」がおかれて、侵入者達が入れ替わり立ち替わり番をしている(というよりも、常に脚で踏んで圧を掛けていないと爆発してしまうのだ)。僕たち(Us)1000人と、彼ら(Them)30人。
泣き叫べば撃たれて死に、黙って耐えれば脱水で死ぬ。暴れれば爆弾が爆発して死ぬ。次々と子供が脱水で倒れていく有様を、二人は、子供の視点ならではの興奮をもって、かつ、興奮以外の感情を交えずに、語っていく。そしてクライマックス。結末は書かないけれども。既に報道されているとおりである。

が、その時に二人に起きたことは大きく異なる。大統領から見舞金をもらって贅沢品を買い込む男の子。担架で運び出される様子が世界中に報道されて、一躍有名になる女の子。
当時の報道を覚えていらっしゃる方であれば(筆者は恥ずかしながら全く記憶になかったが)、彼女が誰であるか、その後どういう経緯で、今こうして舞台に立っているのかを知る。
そして、この物語が、この2人によって語られるべきだったことの必然性をも知る。

生と死が本当に際どいところで交錯していた場所について、バイアスを交えずに語ることは非常に難しい。それがチェチェンやオセチアについてであればなおさらである。
それを、二人の少年・少女を使って語らせた手管、まず、良し。しかも、子供ならではの「残酷なまでの真っ直ぐな目線」で語らせることで説教臭さを拭い去り、観終わって涙も出ないほどのドライな後味。だからこその説得力。

プログラムには「ファミリー向け」とあって、開演も朝の10時と確かにファミリー向けの時間帯だったけど、これは、子供だけに見せるのは勿体ない。
軽量級に見せかけて、傷口も狭いけれども、実は刃渡りが相当長くて、深いところまで差し込んでくる芝居だった。

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