2016年9月15日木曜日

Every Brilliant Thing (Edinburgh Festival Fringe 2016)

24/08/2016 15:15 @Roundabout, Summerhall

今年のエディンバラ、筆者の一番のお気に入り。

この世界で見つけた素敵なことを、一つ残らず、メモに書き付けていこう、というお話。
でも、必ずしも幸せいっぱいの話ではない。かといって、不幸に囲まれた人がせめてもの慰みにと、素晴らしいことを書き付けて気を紛らわせる、っていうマッチ売りの少女的な話でもない。
周囲の人々や世の中全体がぱあーっと明るくなる話でもない。どちらかというと「身のまわり半径5メートルしか描いていない。世界で戦えない芝居」と言われてしまいそうな部類に入る。
でも、この芝居を見終わったとき、ぼおっと心が明るくなったんだ。ちょうどこの芝居を観た分だけ、温まった気がしたのだ。この芝居をまだ観ていない全ての人が、この芝居を観て、その分だけ温まったら良いな、って、そういう気持ちになる芝居だった。

大学を卒業して劇作家になり、そろそろ中年を迎える登場人物。6歳の時に母親が自殺を試み、未遂に終わる。その時に、子供は、思いつく限りの世の中の素敵なことを、気づいたところで一つ一つ書き留めておくことにする。1番=アイスクリーム。
その後、家族のことや自身の精神状態のことで不安を抱えながらも、出会いもあれば別れもあり、もちろん日々の暮らしもあって、小さな喜びも大きな喜びも、それは、いちいち書き付けていくと切りがないのだけれど、ともかくそれを続けていく。そのメモは、次第に、何十万枚にもなっていく。

プロットはそれだけ。Johnny Donahoeの語り口、上演中、少なくとも30人は何らかの形で芝居に参加することになるのだけれど、誰に何をお願いするかとか、というところまで、細かな心配りが行き届いて、安心して聞いていられる(演者の方では、英語がしゃべれるのか、いや、理解できるのかすらも予想がつかない日本人カップルに台詞を読んでもらうのは、心配の種だったかも知れないけれど!)。これはうそんこの話なんだよなー、と思いながら客席で聞いているけれど、でも、それは、ひょっとするとJohnny Donahoeが自分のことも交えて脚色しているような。いや、僕が勝手に自分に物語を引き寄せているのかしら。そこを突き詰める野暮はよして、少なくとも上演中はうそんこな話に身を任せる。

2015年のエディンバラでは早々に売り切れ御礼で観られず、今年もやっぱり満員だったが、それに十分値するクオリティの高さ。Roundaboutでの公演は、円形に狭い舞台を取り囲む客席に対してシーンを無理に見せようとすると空回りしがちだけど、独り語りで観客を巻き込むスタイルの公演にとっては願ってもない場所だし、もちろん演者の技量は要求されるけれど、Johnny Donahoeにかんしてはその点での心配は一切無用だった。

後でテクスト買って表紙を見ると、Ickeの1984やPeople, Places and Thingsも書いてるDuncan MacmillanとJohnny Donahoeの共作だった。なるほど、質が高いわけで。
この芝居、日本で誰か演じてくれないかなー、と思って、劇場出ながらツレと話していたら、中野成樹さんの名前が挙がった。それだ! ぴったりだ! 中野さんで観たい!
というわけで、中野さん、この芝居、演じてみませんか? 一生懸命訳しますから。

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