2016年9月1日木曜日

Richard III

03/08/2016 19:00 @Almeida

Ralph Fiennes主演のリチャード三世。見映えも性格も良くない強度の側湾症の男が、権謀術数の限りを尽くしてイングランド王になるまでの小悪党ぶりを、Fiennesが嬉々として演じていたのが印象的。幕前から冒頭にかけての駐車場のシーン(彼の遺骸は2012年にレスター市内の駐車場の地中から発見された)の後、舞台下手奥からFiennesがひょこひょこ登場して、「じゃ、これから、僕の話、始めますねー」ってなノリで物語を始める語り口に、まずはシビれる。

その後、幾多の謀略、裏切り、暗殺を経て王位を我が物にしていくのだが、ワンステップ進むごとに舞台奥にしるしが現れて、「また一歩、野望に近づいた」(登録商標「サルまん」)感が半端ない。「ステップを踏んで王位に近づいていく」サラリーマン双六な感じは、ドラマを大きくうねらせて進む大悪党ではなく、リチャードの小悪党ぶりに相応しい。

Fiennesは、そうしたプロダクションの意図を、すごく良く理解して演技しているように思われた。映画でも人気のある大スターだけれども、銀幕で見せるキャラクターや魅力に甘えず、これでもかとばかりに小悪党ぶりをしっかり、真面目に追求している姿が心地よい。2009年、東京で古田新太さんのリチャード三世を拝見したときには「シェークスピアの戯曲の強力な枠組みを乗り越えることは、古田さんをもってしても難しいのか」と思ったものだが、意外なもので、小悪党の似合いそうにないハンサムなFiennesがコツコツと(しかも嬉々として)小悪党を演じて積み上げる3時間は、むしろシェークスピアの物語の大枠をグイグイと外に向かって押し広げていく力強さと拡がりを、このプロダクションに与えていた。

ラスト近くの戦死シーンも、小悪党Fiennesの渾身の闘いだからこそ、説得力を持つ。渾身だけれども、所詮ヘタレなサラリーマンテイストの殺陣もどき、すべては双六の結末の一つに過ぎない。地中に埋まったリチャードが、カーテンコールで地上に戻ってくると、それは立派に演じ抜いたFiennesではなく、「ま、こんなもんですかね、王位継承双六の今回の結末は」とうそぶくリチャードのようで、サラリーマンの筆者はここで再びシビれた。王位を賭けた大ばくち、身ぐるみ脱いで、すってんてん。といったところか。

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