2016年9月12日月曜日

In Fidelity (Edinburgh Festival Fringe 2016)

23/08/2016 19:30 @Traverse 2

劇作家Rob Drummond(もちろんこの作品の台本も書いている)が自らホストとなって観客参加型で進める、男女の出会いと愛の仕組みのメカニズムの追求ショー。
発想そのものを取り立てて斬新とか独創的とか思ったりはしないが、丁寧に書き込んだ台本・段取りに支えられ、舞台に上がった観客2人の人柄・コミットメントも手伝って、素晴らしい上質のエンターテイメントとなっていた。

舞台は主に3つのプロットを縒り上げながら進んでいく。1つ目はDrummond自身が「取材」と称して、出会いサイトに登録し、そこでいろんな女性と出会い、チャットする、そして個人メールでやり取りしたりする。その顛末。2つめは、会場にいる独り身の観客から男性一人、女性一人のボランティアを選んで、70分の間「初デート」をしてもらうという趣向。その2つの物語の進行を、3つめ、脳科学(?)の観点のトピックで繋いでいく。

正直なところ、1つめの「お試し出会いサイト」と3つめの「愛と出会いの脳科学」のパートは、見易いけれども、よくテレビで放映していそうな「なるほど」番組とそれほど変わらない印象。
だから、このショーがショーとして、あるいは、演劇として成り立っていたのは、ひとえに、観客参加のパートのおかげだ。

会場内の「パートナーが現在いない人」の中からボランティアを募って、舞台上に上がってもらう。いくつかアンケートを採った後、舞台上に残って構わないという男女一人ずつで「暫定ペア」をつくってもらい、その二人に舞台上でデートして頂く。ホストはDrummond、という趣向。
「出会い」から「最初に過ごす時間」「印象の持ち方」までをその二人にパフォームしてもらうわけである。
ただし、参加者の2人も、現状シングルだけれども、その場を通じて「本気で」パートナーを見つけにいっているわけではない。「自分たちは、劇場の中のパフォーマンスを成り立たせるための披験体である」という立ち位置をよーく理解して、自分をコントロールしていた。かつ、これは本当にたまたまだと思うけれど、二人とも人柄がとても良くて、今後付き合う付き合わないに関係なく、お互いに対する気遣いとリスペクトを失わずに振る舞っていたのだ。そして、観客も、その「舞台を創る側の意図」と「ボランティアの2人の心の持ちよう」「観客として見守る立場」の三者の距離感をきちんと理解していたと思う。そこら辺が、テレビの前の無傷な消費者を前提としたねるとん紅鯨団とは一味違うところではないかと思ったりもした。

だから、2人の考え方を開陳するシーンでも、2人が会場(観客)から置き去りになってしまうおそれが無くて、会場全体が、実は、ショーの終盤にはほんわりと2人を応援するムードになっていたりして、これは不思議。こういう「大人の振るまい」は、たまたまこの回だったから可能だったのか、この公演を通してずっとそうだったのか、エディンバラの観客だから可能なのか、色々考えさせられた。少なくとも、日本でこの公演が成立するとは、小生にはとても思えなかったし。

上演中、パートナーと何年続いているかアンケートというのがあって、うちの25年も相当上位に入っているはずと自信を持って臨んでいたら、甘い甘い、60年カップルが二組あって、その人達、同じ大学でハンガリー動乱を支援する活動をしてて知り合ったってんだから脱帽。そうだな、1956だったんだから、今年で知り合って60年だよ。
終演後、Traverseのバーで、Drummond氏、ボランティアの2人、ハンガリー動乱のカップル2組が一緒にお酒飲んだりしていて、終演後も含めたケアも行き届いた、まさに大人のエンターテイメントだった。

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