2010年5月23日日曜日

燐光群 パワー・オブ・イエス

18/05/2010 ソワレ

以下、観劇前に某氏に送ったメールから一部変更、抜粋:

あちらこちらで評判が良いようで、気にはなっていたのですが、私自身、2006年までロンドンの金融市場に身を置いて、ビジネススクールでブラックショールズモデルを勉強したり、思いっきりレバレッジの効いたMBO案件に関わったり、それをCDOに換えて投資家に売るプロジェクトに関わったり、ロンドンのシンジケーションに関わる連中のカラオケ大会で酔っ払ったり、オランダやスペインのRMBSを買い増そうかどうかなどという議論に加わったりしておりましたので、この芝居、とても冷静に観てはいられないのじゃないのかという懸念や、芝居の途中で「それは違う!」と叫んでしまうのではないかという心配もあり、二の足を踏んでおりました。
ご案内を頂いたとあっては、これは頑張ってスズナリに行かねばと改めて思っています。

以下、観劇後に某氏に送ったメールから一部変更、抜粋:

大変しっかりした戯曲で、しかも、燐光群で観られたのが良かったと思える芝居を観ることが出来ました。よい芝居でした。
藤井びんさんがステキでした。また、鴨川さんがブラック・ショールズモデルの説明の台詞をかまずに言い切った時点で、観に来て本当に良かったと思いました(半分冗談ですが!)。

内容については、自慢じゃありませんが、小生はほぼ全て理解できました。
たとえ事前の解説付きであったとしても、(金融用語、イギリスに特有のコンテクストが多くて)日本の多くの観客にはチンプンカンプンなところが数多くあったと思います。が、そういうところは端折っても、前回の金融危機(今回の金融危機はギリシャ発ですので)の問題が、「大体どこら辺にありそうなのか」を感じて劇場を出られるような仕組みになっていたと思います。

観る前には、もっと日本の朝日新聞的な「庶民の視点では(どこの庶民だよ、お前ら記者はよ!)」みたいなノリを予想していたので、バランスの取れた構成に、大変ほっとした次第です。

一つだけ大変不満なのが、翻訳です。余程力がないか、余程手を抜いたかのどちらかとしか思えませんでした。

金融の専門知識がない方であることは、それは仕方がありません。ただし、出来上がった訳文について、金融を知っている者に「一度でも」目を通してもらっていれば防げた誤訳がしょっぱなから出てきて、がっかりでした。それが「手抜いている」と申し上げる理由です。以下、例を挙げます。
・"Bank of Scotland"と"Royal Bank of Scotland"の区別がついていないと思われる。ハリファクスを買収した"Bank of Scotland"は「スコットランド銀行」、公的資金の注入を受けた"Royal Bank of Scotland"は辞書訳では「王立スコットランド銀行」です。"Royal Bank of Scotland"は、普通に日本のテレビCMで自分たちを"RBS"と呼んでいます。
・"Long Term Capital Management"を「長期資本マネジメント」と呼んでいたかと思います。日経でも「ロング・ターム・キャピタル・マネジメント」"LTCM"と普通に呼んでいます。
・"New Labour"を辞書どおりに「新労働党」と呼ぶと、あたかも労働党を解党して新労働党を結成したように聞こえます。そうではなくて、「新生労働党」であり「新しい労働党」のはずです。
⇒ これらに代表される「手抜き」のために、日経新聞の熱心の読者ですらも芝居の内容がチンプンカンプンになってしまうという事態が起きているはずです。残念です。

専門用語、固有名詞については眼をつぶるとしても、
・"fight back""hit back"を「たたかい返す」と訳すのは、力がないか手抜きかのどちらかです。「たたかい返す」という日本語はないでしょう。少なくとも「やり返す」「反撃する」のはずです。
⇒ これに限らず、訳文の簡単な校正すらも出来ていない印象です。非常に残念です。
原文を知っているから言うのではありません。原文を読んでいなくて、日本語だけ聞いても容易に原文が予想できる違和感だから申し上げています。
小生、「現代口語演劇みたいに訳せ」とか「誤意訳で訳せ」と言っているのでもありません。これは翻訳劇ですから。でも、それにしても押さえるべき最低レベルがあるはずだと思っています。

また、翻訳の問題ではありませんが、労働党議員の一派が舞台に現われる時に胸に「青い」造花をつけて出てきますが、「青」は保守党の色です。労働党の色は「赤」ですので、ご参考まで。

すいません。くどくど申し上げましたが、芝居としてはとてもエンターテイニングで楽しませていただきました。ありがとうございました。

2 件のコメント:

直之 さんのコメント...

私はイギリス・ジャーナリズム史を研究するものですが、劇評、大いにわが意を得ました。
全公演の終わったあと、鴨川てんしさんから電話をもらい、今回の芝居いっぱい噛んでしまったと言っていたので、それは翻訳が良くないからだと伝えた次第です。
私が観たのは大阪公演ですが、その時の舞台評、お暇なおり、ご高覧くださればさいわいです。

http://murakaminaoyuki.blog7.fc2.com/


私も小劇場演劇のアディクトの一人として、これからもTOKYO FRINGE ADDICTを楽しみに拝読させていただきます。

Homer Price さんのコメント...

直之さん
コメントありがとうございます。
今後ともよろしくお願い申し上げます。

大阪の舞台評、拝読いたしました。フィナンシャルタイムズの記者の立ち位置を、日本の新聞記者のそれと比べてみるのも一興かと思います。ジャーナリストのキャリアパスもかなり違いますし。