25/07/2008 マチネ
現代のチェーホフを目指すのかあいも変わらずの岩松ワールド、今回もまた、三人姉妹の引用あり、19世紀末的な長台詞あり、奥様の不貞あり召使あり家庭教師あり、と、露骨なチェーホフトリビュート。
鉄骨剥き出しの軍靴工場オーナーの邸宅。俗物な主人、姉妹、異物としてのプラチナブロンドの中村獅童、ゴスなメイド、イカれた家庭教師。これだけ揃えて岩松シェフの厨房に並べれば面白くないわけはなくて、休憩挟んだ2時間40分、たっぷり楽しめる。
が、どことなく昨年のシェイクスピア・ソナタに較べて食い足りない気がしたのは、おそらく、下記二点による:
① 獅童の上に乗っかる年齢のいった男優が一枚足りなかったこと
② 芝居全体の中のユーモアの欠如
①についていうと、中村獅童初見だったが、獅童自身はさほど悪くない(台詞をキメすぎる嫌いがあるのは減点材料だけれど)。が、もう一枚、年齢が 上の男優に物語の差配をゆだねておいた方が、獅童の遊び方にバリエーションが出て面白かったのではないか。ちょっと役割を自分の背中に負いすぎて窮屈に なっている気もした。
②は、僕にとってはより重要なことなのだけれど、この「羊と兵隊」という芝居は、おそらく、「悲喜劇」と呼べない、あるいは、呼ばせないつくりになっている。妙に、生真面目なのである。
ユーモアのある芝居を作り出す具体的なハウトゥーが存在するわけではないのだが、ユーモアの前提条件として、自らを第三者の眼で突き放して見る態 度があるとすれば、シェイクスピア・ソナタの戯曲・演出・役者(特に松本幸四郎と伊藤蘭)にはそれがすっかり備わっていた、そして、今回の「羊と兵隊」に はそのどれかが、ちょっとずつか、それともすっかりか、欠けていた、ということなのだろう。
いずれにせよ、「チェーホフの持つ現代性とは何か」という、チェーホフ戯曲の公演を観た後、居酒屋で4時間くらい話し続けられそうなネタを、自ら戯曲を書き演出することで世に打ち出していく岩松氏の愛と胆力には、ホント、敬服せざるを得ない。勉強になります。
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