2007年11月29日木曜日

野鴨

28/11/2007 ソワレ

23日に風邪で動けなくて観られなかったのを、タニノクロウ演出ということでどうしても観たくて水曜日再チャレンジ。無理して行って、本当に良かった。

・ 劇場内にフラットに作った森。最初は、「この小屋のバトンが見えない!」位に鬱蒼としていた。
・ マメ山田さんの立ち!この人が舞台のへちを歩くだけで、その空間が持つ温度・湿度・密度が塗り替えられていく。
・ 石橋正次さん。僕は「夜明けの刑事」の刑事さんとしてしか認識してなかったのだけれど、そうすると、何と30年ぶりに見る彼の演技は、タニノクロウ演出の元でなんとも見応えのあるものでした。
・ 高汐巴さんのテーブルクロス!石田えりさんの「あ゛ー!」

休憩を挟んで2時間45分。まったく長く感じられなかった。舞台上のどこをとっても、「イプセンの戯曲」を説明しようとする演技を見出すことが出来なくて、そこが全く素晴らしい。緊張感が最後まで持続する。

で、その素晴らしいパフォーマンスを観終わって僕が得た結論は、「どうもイプセンの戯曲はどうも生真面目で、『芝居を通して主張したいこと』が先 に立っちゃって良くない。」ということ。僕は野鴨の戯曲を自分で読んでいないし、また、他のひどい演出で観たこともないからこう言えるのかも知れないが、 タニノクロウのすばらしい演出が、図らずもイプセン戯曲の限界を顕したのではないか。

だって、野鴨が何かの象徴だなんて、もう、ちょっと気恥ずかしくて言えないでしょう、今では。チェーホフのかもめが、「いや、覚えてないなぁ」 と、あたかも「まさかあなた、かもめを何かに喩えようなんてお考えじゃないですよねぇ」とでも言いたげな風情で一蹴されるのとは対照的だ。その意味で、イ プセンは現代劇になりえず、チェーホフはそれが出来る。と僕は思う。

タニノクロウ演出は、ストレートにイプセン戯曲を舞台に載せ、下手な思い込みを排除することで、
①まずは芝居としてキチンとしたものを提示し、その上で、
②野鴨に対して観客が期待するであろう変なお説教ネタやアナロジーを「そのまんま」価値観無しにあぶりだしてみせ、「今更こんな時代でもない」ということを自覚せざるをえないところに観客を追いやった
とでも言えるのではないか。
まぁ、演出の意図の邪推なんてしてもしょうがないのだけれど、存分に堪能しました。

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