2016年5月11日水曜日

H.M.S. Pinafore

30/04/2016 19:30 @Hackney Empire

Hackney Empireを初めて訪れた。ギルバート&サリバンのオペラを全員男性キャストで。伴奏はフルオケじゃなくて、電子ピアノ一台。

軍艦ピナフォア(前掛け)っていう名前も、まぁ、日本語でいうなら軍艦おむつ、って感じのふざけたネーミングなのだけれど、
その船を舞台に、艦長と、その娘と水夫の身分を超えた恋と、その娘の許嫁である海軍大臣(文官のひょろひょろ坊ちゃん)、ずっと昔の赤ん坊取り違え事件、というプロットを並べて、
身分制度とか軍隊の上下関係とかそういう諷刺のなんやかやをぶち込んでおバカなラブコメに仕立てた軽いタッチのオペラである。

このプロダクションでは、女性のパートも男性が歌う。キャスト16人ぐらいと限られているので、男性パートを歌った直後に、みんなで声を切り替えて女性パートを歌ったりもする。
ヒロインのソプラノは、常に4分の1音ぐらい低い感じで、「がんばってるなー」感があるが、それもご愛敬である。
エンターテイメントとしては相当面白かった。

もちろん、現代のコンテクストに当てはめるとLGBTの話は避けて通れないのだけれど、そこに正面から当たりに行っているのか、所詮小咄と割り切っているのかは、正直筆者には分かりかねた。
だって、出演者はみんな、マッチョな男たちが水兵演じて隆々たる筋肉を惜しげもなくさらして、さっき水兵だと思っていた男がひらひらのドレス着てソプラノで歌っちゃったりするのである。
同性愛は、仄めかされているのではなくて、ビジュアルとしては目の前にある。するとポイントは、ギルバートとサリバンの時代に、そういう変換が為されていたか、ってことだけどなー、いやー、それは考えすぎかなー、等と考えていたら、

休憩に入って、隣にいた我が師が「このプロダクションはジェンダーフリーが云々」と言い出して、「うーん、低予算受け狙いオール男性キャストプロダクションだよねー、それにしては技もあるし身体も動くし、エンターテイニングで楽しいよねー」位の結論で収めようと日和っていた筆者は大変面食らったわけであるが、
第二幕、ラストに入って、演出の狙いが「あー、そういうことか」と理解できるシーンが入って、筆者は納得。ところがふと隣を見ると、我が師はたいそう不満げな顔をしており、聞けば「そういうところで収めてしまったことで限界が見えた」のだそうだ。そうかもしれない。実はもっと考えてないのかも知れない。そこは謎だ。

H.M.S. Pinaforaは、他のギルバート&サリバンの主要オペラと同様、ヴィクトリア時代の社会を諷刺しながら、上下左右を転倒させて(Topsy Turvy)、かるーいお色気を混ぜながら、ここぞとばかりに美しいメロディを投入して大いに泣かせにかかる、という構造を取っているけれども、正直、音楽の美しさにおいては他の作品、たとえばMikadoと比べると一段落ちる印象。
それじゃあMikadoをオール男性キャストで観たいかというと、うーん、それはどうかな、と思いつつ、花組芝居がMikado上演してくれるって話になったら是非とも馳せ参じたい、とも思う。

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