2016年5月13日金曜日

Elegy

04/05/2016 19:30 @Donmar Warehouse

2人〜3人の少ない人数で、大袈裟な装置もなく、大仰なテーマを掲げるでもなく、丁寧に会話で紡いで1時間強見せる芝居、身の回り5メートルのことしか話していないのに、それ故に却って深みをもって迫ってくる芝居、そういう芝居に、UK演劇の強みというか、凄みを感じることがままある。

このElegyという芝居も、まさにそういう芝居の一つ。近未来を舞台とした半SF仕立て、という触れ込みではあったけれども、そして、そういう芝居ではあるのだけれども、老いを迎えつつある女性3人の会話だけで、テーマの押し売りを巧みに避けながら、飽くまでも淡々と時間を流していく。現代口語演劇にも通じる時間の流し方をしながら、しかも骨太なプロットは見失わない。そして、こういう芝居を観ると、改めて、UKの役者は本当にちからがあるんだなあ、と思い知る。

まあ、その骨太なテーマというのが「愛する人の生命を助けるためには、その愛する人の記憶から、自分に関する記憶を全て消去してしまう必要がある。愛する人の生命を救って愛を失うか、愛と共に愛する人を失うのか、貴女はどちらを選びますか?」っていう、日本のテレビドラマに出てきそうなテーマなのだけれど、でも、その設定に無理がなくて、荒唐無稽な感じがしない。舞台上で登場人物に突きつけられる選択肢の幅にも、突飛な「芝居がかった」ものは出てこない。舞台上の人物の思考・判断が、観客一人一人の経験から乖離していなくて、リアルに、しかもギリギリのものと感じられて、他人事でなくなる。

加えて、(これは、実は、テクストを買って帰ってから読んでみて初めて分かったことなのだけれど)、舞台上の時間の進行と物語の時間とは必ずしも順序が一致していないのは分かっていたのだけれど、「そういえば」とハッとさせられる仕掛けがあって、しかも、役者が3人ともとても達者なものだから、そうした時間の流し方の仕掛けを苦にせずにスムーズに演じて、現代口語演劇風の淡々とした時間の流れを邪魔しない。そうだ、青年団の「暗愚小傳」と似た時間の流れの心地よさと、リアルのようで実は突き詰めたところで虚実の狭間を巧みに縫っていく、いや、むしろ、正気と狂気の間を縫って生きおおせなければならない、そういう悲しみを漂わせるものが、この芝居にはあった。けだし、Elegy。良い芝居だった。

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