2016年5月24日火曜日

Down & Out in Paris and London

14/05/2016 14:30 @New Diorama Theatre

ジョージ・オーウェルの「パリ・ロンドン放浪記」からタイトルを借りたこの作品。ジョージ・オーウェルのパリでの体験と、現代UKのジャーナリストPolly Toynbeeによるルポルタージュ”Hard Work”を組み合わせて、90分の芝居に仕立てている。
オーウェルがパリで経験した「底辺」。手持ちのカネは底をつき、何日も食事を抜く羽目に陥り、仕事が見つかったと思えば四六時中働きづめ、余ったカネは酒に消える日々。
トインビーがロンドンで経験した「底辺」。最低賃金ではその日その日の食費がせいぜい。クレジットレコードの無い身で分割払いが通用する家具屋に出かけると、トータルの値段が市価の何倍にも跳ね上がり、結局カネは貯まらず、その日暮らしの繰り返しが延々と続いていく。
これは、作・演出のDavid ByrneがHullやLondonで経験した貧困生活とも呼応しているのだそうだ。

こうした、いわゆる「社会の不正義告発芝居」は、説教臭くなったり、アジ演説みたいになっちゃったり、観るに堪えなくなってしまいがちだし、
この芝居でも、冒頭、役者が「こんにちは、わたしがジョージ・オーウェルです」って始めちゃうところとか、パリでの生活を語るシーンで大家の婆がテレビでもやらないような冗談みたいなフランス訛りの英語で話して見せたりするところとか、「酷い芝居になっちまうんじゃないだろうか」とドキドキさせてくれてくれたが、いやいやどうして、中盤からペースを掴んで、最後まで面白く観ることが出来た。

何で観続けられたかを思い返してみると、やはりそれは「個々のシーンの面白さ」「局面局面での丁寧な演技」に尽きる。
トインビーの、職場での何気ない会話。通り過ぎる同僚達と形作るリズム。オーウェルがレストランで働き始めてからのリズム感。
一つ一つの所作が丁寧であればあるほど、トータルでのリズム感にポジティブに働き、芝居がドライブしていく。
それが観ていて気持ちよい。
それは、仕事のリズムとも通じて、きっと、リアルにも、リズムの付いた仕事はさばきやすい。

そして、それは、危険だ。
リズムに乗って毎日を過ごして、週末になって一週間のリズムが出来て、一ヶ月のリズムが出来て、一年のリズムが出来て、
そうしてリズムに乗っている間は色々なことを忘れて、気がつくと色々なことを全部おいてけぼりにしたまま歳をとっている。
このリズムの気持ちよさに載っかると、銀河鉄道999の鉄郎になってしまう(歳がバレるが)。

そんなことを思う芝居だった。

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