2016年7月19日火曜日

Saarländisches Staatstheater / Fatzer

09/07/2016 18:00 @Ringlockschuppen Ruhr

ドイツ西部にある町、ミュールハイム市まで、ファッツァー祭りを観に行ってきた。デュッセルドルフから電車で30分、ルール工業地帯の中にあって、デュイスブルグとエッセンという、2つの大きな都市に挟まれ、古くは石炭・鉄鋼に関連した都市として栄えた。石炭採掘をやめてからは緑の多い、静かな、大都市からちょっと外れたルール河畔のこぢんまりとした町となっている。が、何を隠そう、ブレヒトの「ファッツアー」に出てくる脱走兵達は、ミュールハイム市内の地下室に身を隠す、という設定になっている。そして、ミュールハイムにある劇場Ringlokschuppen(ラウンドハウス)では、それを祝して(?)、毎年初夏に「ファッツァー祭り」を開催しているのだ。今年は、日本から地点、ザールブリュッケン市のザールラント州立劇場のプロダクション、そして、ベルリンから来た若手2人組バンドの演奏、シンポジウムとアーティストトーク、といったプログラムだった。

まずはザールラント州立劇場のプロダクション。登場人物は男性4人と女性1人。原作とこれは同様だけれども、ファッツァーをネタにしたレビュー仕立ての1時間45分。お世辞にも上手くいっているとは言えなかった。前半はブラックタイとイブニングドレスの5人によるポリティカルなせめぎ合い。後半は「人間の形をした着ぐるみ」を着た5人による市民座談会から、混沌としたエンディングへとなだれ込んでいく。小生がドイツ語を解さないせいで、全く面白さの拾いようがなかった、という面もあろうけれど、翌日偶々電車で一緒になったドイツ人の某教授も「あれは良くなかった」とおっしゃっていたから、まあ、言葉に関係なく、出来は良くなかったのだろう。展開に行き詰まると音楽を鳴らしたり、声を揃えて台詞を言ったり、そういった手口がいかにも苦しい。交渉が舞台・客席を覆って終わる、という意図と意気込みは伝わってきたけれど、そこまで全く持って行けてないことをもって「面白い芝居だった」とはとても言えない。

興味深かったのは、(ドイツ語を解さないのにどこまで分かっているつもりなんだ? と突っ込まれると答えに窮するものの)、どうやら、ファッツァーの仲間内、あるいは、登場人物の仲間内での摩擦を、「個人と個人の間の摩擦、権力闘争」として捉えている感が全面に押し出されていたこと。この後拝見することになる地点のファッツァーが、「分割できないものとしての群衆」や「何者でもないものとしての個人」を意識した仕立てになっているのとは対照的だった。やはり、西洋は、個人があって、対話があって、そこから集団を形成していく土地柄なのかなー、と考えたことである。

0 件のコメント: