2016年7月15日金曜日

Blue/Orange

18/06/2016 14:30 @Young Vic

精神病棟に1ヶ月入院していた青年。統合失調症のおそれあり、長期入院させて「助けてあげるべき」という意見の新人医師。経営上の(より具体的には病床数の)理由から退院させるべきという意見の上司。3人のやりとりの中から、陰に陽に現れ出でる権力関係の諸形態。

劇場のドアをくぐって観客席に向かうと、診療室を通り抜ける。へえっと思って客席につくと、何と囲い舞台をめぐる蹴込み(透明のアクリル板である)を通して、さっき通ってきた診療室が見える。舞台はその真上にあって、さっき見たのと同じ椅子、机、ウォータークーラーが配されている。すなわち、真下の診療室の壁を取り払った恰好になっていて、何だか「いいですか?本当はここに壁があるんですよ」と言われているみたいで、ちょっとくすぐったい。

登場人物3人の間では、上司と部下、医師と患者、白人と黒人という権力関係が明確で、その関係を突き詰めた、濃密で剥き出しのやりとりがこの舞台の見所であることは間違いない。一方で、白人=医師、移民=患者という上下・階級関係の分かり易さは(それがUKの現実なのだとしても)、ステレオタイプな同情と、それと裏返しの状況として、観客を「物わかりの良い、安全な立ち位置に身を置いた」人へと押し上げてしまっていた気がする。先日Royal Courtで観たCyprus Avenueでは、診断される側が比較的裕福なプロテスタントの初老の白人男性、セラピストがアフリカンの若い女性という風に置くことで効果を挙げていた。それは「先入観をひっくり返す試み」といった軽はずみで小便臭い売り文句ではなくて、劇場に足を運ぶ「もっぱら教育のある、ある程度生活に余裕のある人々(もちろん白人が多い)」を安全な立ち位置に置いてしまわないための仕掛けである。

その意味で、緊張感のある熱の入った芝居であることは認めるとしても、観客を安全な立ち位置から引き離すまでには至らず、これまた惜しい芝居だった。

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