2016年7月17日日曜日

Faith Healer

01/07/2016 19:30 @Donmar Warehouse

北アイルランド出身の劇作家Brian Frielによる3人芝居。1979年にブロードウェイで初演、その時は不入りだったようだが、その後あちこちで再演を重ねている。今回は(Game of ThronesやThe Real Thingで有名な)Stephen DillaneやRon Cookも出演ということで、8月の千穐楽まで売切御礼。偶々リターンか何かで出ていたチケットをネットで手に入れてDonmarへ。客入れ中、舞台を囲むように水が絶え間なく上から降り注いでカーテンとなり、それを鈴なりになったハロゲンランプが上から照らす。開演すると中に舞台が現れる。板張りの床。質素な舞台。

3人芝居。2幕4場。モノローグのみ。Faith Healer(直訳だと信仰治療師だが、実態は田舎のパブをどさ回りしてあぶく銭を稼ぐ、治るも八卦治らぬも八卦の呪い療法師)と、その妻と、マネージャー。3人のどさ回りの思い出と、アイルランドのとある小さな村での事件の顛末について順番に語る構成をとる。それぞれに微妙に記述が食い違っているのだが、その整合性チェックと真実の所在の謎解きはこの芝居の主題ではない。むしろ、このテの「信頼できない語り手」による語り芝居では、受け手の想像力のスイッチをどうオンにして、受け手一人一人に勝手に物語を紡がせるかに醍醐味があるはずで、その背後に芝居がお膳立てしてくれた豊穣な世界(そこは曖昧模糊とした世界で、そこには必ずしも一つの真実は隠れていない)を堪能。ただしそこから「隠れた関係性の襞」が汲み取れなかったのは、小生の英語力の不足か、モノローグ芝居故の至らなさか。いずれにせよ少し残念。

語り手は観客席に対して語りかけるので、客席の反応へのレスポンス、目線の配り方、客席でのノイズへの反応が注目されるけれど、Ron Cook(Conor McPhersonのSeafarerで悪魔を演じていた方)が出色で、さすがと思わせる。「誰がどういう状況で誰に対して」語っているのかは、この芝居では最後まで曖昧なまま、そして登場人物3人の記憶も、曖昧なのか故意・錯誤で歪められているのかは判然としない。とにかく、本人の「ここにいるのだ」という確信と、3人の関係性だけは、確かにそこにあった。

平田オリザの「所詮2人の仲は平行線。でも、そこに一本斜めに線を引けば、そこに2つできる錯覚(錯角)と錯覚(錯角)は互いに等しいじゃないか」ていう台詞を思い出したりしたのだ。

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