14/07/2010 マチネ
初日。
一日経ってみて、自分が、かなり深く感動していることを思い知る。
3時間の1人芝居、全く長く感じなかった。出演している太田宏の力はもちろん、田野邦彦の演出、舞台美術、客席の配置、客あしらい、照明・音響が醸し出す全体の雰囲気、色々なものが本当に上手く調合されて、「1人芝居を押し付けられている」苦痛の時間になりかねない3時間を、ときに柔らかく、ときにハードに、速く、遅く、「北西イングランドの灰色の景色をバックグラウンドにしているにも拘らず」色彩に満ちた時空に変えて、観客を包み込んでいた。プロダクションとして最上級のおもてなしに仕上がっていたと思う。
話としてはマンチェスター郊外のとあるティーンエイジャーの日常と成長を描くビルディングスロマンと括ってしまって構わない。それを男優が語るのだから、まぁ、推して知るべしである。だから、勝負どころは、語り口であり、時間の伸縮であり、おもてなしの精神である。
そもそも西洋翻訳モノ演劇にありがちな「観客への語り芝居」で面白いのにはこれまで当たった経験があんまりなくて、そのテの芸で上質のものとなると落語になってしまう。あるいは、三条会なら大丈夫かな、とか、あるいは、チェルフィッチュの語り口であとは糊代を丁寧に、きれいに固めてしまうとか。だから、如何に太田宏といえども3時間語りっぱなしではかなりの苦戦が予想されたのだが、蓋を開ければこは如何に、力の入り過ぎない語り口、客席への目配り、観客に根を詰めさせすぎない劇場のつくりが全てプラスに働いて、するっと3時間聴けてしまったのだ。そのこと自体が、「スゲエ」ことである。
まぁ、マンチェスターご当地ものの戯曲に、「Oldhamの街の雰囲気はこんな感じかなー」という予見を持って臨んでいたアドバンテージは僕にはあるかもしれない(だから、前半、Streetsがかかった瞬間に涙出そうになってしまったのだ)。でも、それを差し引いたって、この強度はすごい、と、僕は言い張るね。そして、3時間をすごせたことだけがすごいのではなくて、本当に良い3時間を過ごしたなぁ、っていう実感が、一夜明けて、一日過ごして、それでもなおじわじわと身体にしみわたる経験については、プロダクションの皆様に深くお礼するしかない。
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