21/11/2015 20:00 @日本文化会館パリ
このタイミングで、パリで、チェルフィッチュの公演を観ることが出来たのは、自分にとっては大変大きな意味があった。
それだけでも大きかった。
日本での上演は観られなかったので、本作品は初見。チェルフィッチュの公演を観るのは「地面と床」以来。
パリ行きも以前から予定していた。電車で2時間半。極端に遠くはないだろう。美味しいものも食べたかったし、友人にも会いたかった。「わざわざパリまで」感は、さほど無い。前週のことがあったために、「今、パリに行くこと」について意味がついたように思う。
シーンの一つ一つが強く記憶に残る、素晴らしい体験だった。
それが、前週のことがあったからなのか、チェルフィッチュがキレッキレだったからなのか、なのかは、判然としない。
これが青年団の公演だったら。岡崎藝術座だったら。はたまたキャラメルボックスだったら。こんな風に記憶に残る観劇体験になったかは、分からない。結論は出ない。
でも、いずれにせよ、大変素晴らしい公演をみせて頂いた。
その出会いに、感謝する。クオリティの高いものを届けてくれた関係者/役者/スタッフの方々に、心から感謝する。
で、何が素晴らしかったのか。
芝居がはねた後、友人と色々話していたのだけれど、強く感じたのは、
「極めて上手であること、巧みであることは、決して嫌味なことでもダメなことでもないのだ」
ということ。
一つ一つの仕草が「意味の無い仕草」に見えたり「意味を持つ、意味を伝える、記号としての仕草」に見えたりする、
それが、絶えず揺らいで、観ていて飽きない。
誰が/誰に扮して/誰に対して/ 言葉を発しているのかも、絶えず変わる。しかも、それによって観ているわたしの意識の流れが邪魔されない。
ある動きが、「記号っぽく見える」のと「特に意味の無い仕草に見える」のを区分けするコンテクストは、ある集団が持つ「文化」によっても「個人」によっても異なるはず。
だから、作者/演出家/演者が一つのコンテクストを軸に一連の仕草を提示したときに、そのコンテクストが100%そのまま受け入れられる可能性は殆どゼロで、
したがって、観ている側からすれば、「あぁ、この創り手は、おそらく、ある一定のコンテクストに沿ってある仕草をみせている。それは、自分の想定するコンテクストとずれている/ずれていない。従って、この動きはリアルでない/リアルである。」という判断を無意識に働かせているのだと考える。
今回のチェルフィッチュの素晴らしかったところは、そのコンテクストの差異の継ぎ目を見事なグラデーションで「処理していた」ことだと思う。「処理」というと作業っぽいけれど、それは、本当にすごいことだ。
東京の日本人も、パリの日本人も、パリのフランス人も、みんなが、異なるコンテクストで同じ一つのパフォーマンスを観ていて、
おそらく、自分のコンテクストとのすりあわせをそれぞれに行いながら、その殆どがそれを楽しんでいたのだから。
で、「あぁ、ここで差が出るな」とか、「これは万国共通」とか、そういう境目が、(敢えて演者側から強調しない限りは)感じられないような、見事な肌触りだったのだ。
「自分の言っていることは万国共通、みんなに通じることだ」というナイーブな感覚を超えて、
「背負っているコンテクストが人それぞれなのだから、それに耐えられる強度を持ったパフォーマンスを、『剛』ではなく『巧』をもって創れば良い」
という発想。
また、語りの構造の強度もまた素晴らしく強くて、しかも、継ぎ目の処理が見事である。
それは、作者が、誰が/誰に扮して/誰に対して/ 言葉を発しているのかについて、常にクリアーに見えているからに違いない。
音楽も良かった。のっけからバッハの平均律クラビアを、あんなぺラペラな音で流してくるとは。
あれにしても、音楽のどの部分を自分の持つコンテクストに結びつけて捉えるかで、相当聴き方に個人差が出ていたはず。
いや、すごい。言うのは簡単だけれど、それをやってのけるのは本当にすごい。
昔、柴幸男さんの「御前会議」で、現代口語演劇の台詞をラップに乗せて語っているのを初めて聞いたときに、
「所詮、リアルな発語もリアルでない発語も、演出家による振り付けでしかない。後はそれがどう観客にとらえられるか、だ」
と気がつかされた時に、同じくらいビックリしたのを思い出した。
「わたしはあなたのコンテクストを100%共有することはできません。だから/でも、わたしはあなたのパフォーマンスを観る。だから/でも、わたしはあなたと会話を交わしたい。だから/でも、わたしはあなたと共存できる。」
そういうテーマが、語られる事柄や、その語り口や、みせかたや、そうしたところから、
わたしの意識の中に形作られているのを感じた。やられた。
本当に、素晴らしいアーティストの巧の技を堪能した。幸福な時間だった。
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