2015年11月24日火曜日

Inextinguishable Fire

08/11/2015 17:00 @Dorfman Theatre, National Theatre

開場して劇場に入ると、舞台上にパンツ一丁の男が立っている。
開演して照明が変わると、防炎服で頭から足先まで固めた男が2人登場する。2人がかりでパンツ一丁の男に服を着せていく。
まずは、多分防炎なのだろう、股引みたいな白い肌着を履かせる。もう一枚。その上から黒い股引(スパンコールのようにきらきら光っているのは、多分防炎のためのローション)。
次に上半身。黒地できらきらした長袖の肌着を3枚。
次に靴下。最初に白いの、次に黒いの。
手袋。白いのの上から黒いのを嵌める。
それから、茶色いモコモコのライナーがついた、黒いオーバーオール。その上から、白い宇宙服みたいなオーバーオール。
頭にローションを塗りつける。それから、黒い伸縮性のバラクラーバ。目のところが長方形に開いている。もう一枚、透明に近いマスク。その上からもう一枚のマスク。
その間、顔の露出しているところをカバーするように、何度も確かめながらローションを塗りたくる。耳無し芳一にお経を書く和尚さんのようだ。一方で、息が詰まらないようにも気を遣っている。
靴を履かせる。2人で片脚ずつ靴紐を結ぶ。
最も外に着ている白いオーバーオールのフードをかぶせる。

上手と下手から、ペンキ缶を持った男達が出てくる。男のオーバーオールの下半身、腕、背中に、黄土色のペイントをぺたぺた塗りたくる。

男が一人、上手で消化器を構える。下手はよく見えないが、おそらくもう一人構えているのだろう。

下手から男が出てきて、たいまつに火をともす。

ここまで、開演から20分。

たいまつの男が、防炎服を着て中央に立っている男の足下に着火する。
オーバーオールが、おそらくさっき塗っていたペイントに沿って、燃え上がる。十字架の形をして炎が立ち上がるように見える。
燃える男が両手を広げて、「グオーーーー」と声をあげ、客席に向かってうつぶせに倒れる。
両側から男2人が駆け寄り、消化剤を掛けて鎮火する。

着火から倒れるまでおよそ10秒前後。鎮火所要時間4秒前後。ショーの終わり。

客電がつく。客席の反応は一様に「これでおしまい?」。
三々五々席を立って出口に向かうと、劇場の外にいる案内人が「この後、野外でショートフィルムの上映があります」といって場所を告げる。
小雨に変わりそうな霧の中を、指定された場所に向かう。

歩きながら考える。あの10秒、あるいは、鎮火されずに30−40秒苦しむようなことが、東京大空襲の夜には何十万と起きたのだと。
「熱い!グオーーーーー」という叫びが、少なくとも、何十万か。

上映が始まる。最初は何が映っているか分からない。白い壁のようなもの。
やがてそれが、燃え上がる男の白いオーバーオールの大写しであることが分かる。カメラが引くにつれて、燃え上がる男の全身が映る。
男が炎に包まれるまでの10秒前後を、10分に引き延ばして見せる。

炎というものは、なんと、色々な形をとりながら、燃やす対象物の表面を「舐める」ように広がっていくものだ。

鎮火まで見せると、そこから、今度は速度を若干速めながらフィルムを逆回ししていく。
最後にオーバーオールの部分が大写しになって、終わる。約20分。

解説を読まなければ、プロパガンダの臭いはしない(実際にどうなのかは、読んでないので分からない)。理屈っぽく捉えないつもりで帰れば、見世物としても悪くない。

このパフォーマンスが見世物以上の意味を持つとすれば、それは、
「燃え上がる炎は本当に熱い」「防炎服を着込んでも10秒前後で耐えられなくなる」ということを目の当たりにするということだろう。
この「熱さ」に対して、どこまで他人事でいられるか。

いや、他人事である。お金払って見てたんだから。

それを観ていた自分に意識が行ったときに、ぎくっとする。そういう作品である。

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