2017年3月29日水曜日

Hamlet

25/02/2017 19:00 @Almeida

ロバート・アイク演出、タイトルロールにアンドリュー・スコット(シャーロックのモリアーティ役だった人)を配して、アルメイダからお送りするハムレット。
きりっと締まった、幹のぶれないシェークスピアを期待して出かけたが、結果も、ほぼ、期待に違わず。
「ほぼ」というのは、この3時間45分の上演の、最後の5分で、え!え!え!?ってなったからで、そこは末尾に<ネタバレ>として書きます。

舞台装置・衣装等々を現代に置き換えて、ニュース映像はデンマーク語で流す趣向。父ハムレットの亡霊は場内遠くに見えるのではなく、セキュリティ監視カメラの向こう、ディスプレイ越しにはっきりと映ったりする。ハムレットの人物造形も、平たくいえば抑えめ、誉めていうなら現代口語演劇風、くさしていうなら(多分)パワー不足の焦点がはっきりしない演技で、筆者好み。ハムレットの言動や感情の振れ幅がそもそも大きいのだから、それを全部増幅して舞台に載せるとハムレット個人に全体が振り回されてしまい、主役に頼った「スター芝居」になってしまう。今回のアイクのハムレットには、それを極力避けたいという意図が感じられた。

クローディアスのアンガス・ライト、ガートルードのジュリエット・スティーブンソン、オフィーリアのジェシカ・ブラウン・フィンドレーと、アイクの座組でおなじみの役者を揃えて、周囲の状況をキリッと輪郭づけ、ポローニアスのピーター・ワイト(一昨年のThe Red Lionsに出てたんだ!)とローゼンクランツ・ギルデンスターンのコンビ(出落ち気味に登場!)が微妙にコミックリリーフの役割を与えられて、渋すぎないように全体を組み立てる。その中にハムレットを放り込んで、個人の振れ幅は飽くまでも全体の枠組みの中に抑えて下さいね。ただし、注ぎ込むエネルギーの総量を抑えろといってるわけではないので、そこのところよろしく! って言ってる気がする。

アンドリュー・スコットはそこにきっちり応えて、多少手がヒラヒラしすぎかな、という気はするものの、現代風の、振れ幅ダダ漏れでない、でも、確実に危ないところへと進んでいくハムレットを演じて、見飽きない。アンガス・ライトのクローディアスが、なんとも「ひょんなことで国王になっちまった(あるいは、ひょんなことで前王を殺しちまった)」王を演じていて素晴らしい。前王ハムレットの「こいつひょっとして亡霊のくせに嘘ついて息子を煽ってるだろう?」的な何とも読みにくい振る舞いも良し。ジェシカ・ブラウン・フィンドレーには、ワーニャ伯父さんの時の突出した素晴らしさはなく、むしろ、冒頭スカートの不釣り合いな短さとヒールで歩くときの前かがみの姿勢が気になったけれども、兄レアティーズの前に現れたときの演技は圧巻。

そういう枠の中でのハムレットの物語は、定番の「ガートルード・ハムレットのマザコンねっとりな関係」「かまって光線バシバシ(©平田オリザ)のハムレット中二病描写」を排して、極めてドライに進行する。味がくどくないから、3時間超えてもお腹にもたれない。かつ、あ、これ、やべー、という感じが、しっかり伝わってくる。これまで筆者が観てきたハムレットの中でも出色のプロダクションだと思う。

<で、ここからネタバレ>

で、これだけ抑えて3時間45分進行しても、でも、やっぱり、最後はみーんな死んじゃうんだよね。そのカタルシスに対する照れくささは、みんな死んじゃう以上、拭い去れないわけで。さて、どうする?
2013年に上演された多田淳之介のハムレットは、みんなが死ぬシーンの前で芝居をぶったち切ってしまって、それはそれで「おお!」と思ったのだが。
今回のアイク演出では、ラスト、死者たちは、舞台上に設けられた大きな窓(引き戸)の向こう、舞台奥へと一人ずつ去って行く。舞台奥では、冒頭に現れたパーティーの続きが展開しているようにも思われる。それを舞台奥に感じながら、客の方を向いてニヤッとするハムレット。舞台奥のピクチャーに自分も加わろうとしているのか?
ん? これは、いやいやいや、これは、あれですか?

シャイニング

ですか? 舞台奥に加わって、みんなが満面の笑みで写真撮影したら、まるっきりシャイニングじゃないですか?その写真がお城の壁に飾られる、っていう趣向ですか?
とまあ、実際にはシャイニングみたいには終わらなかったのだけれど、でもね、終演後、一緒に観てた娘に「あのラストは一体何だい」ってきいたら、何と、娘曰く、

あれは、タイタニックのラストです。

世代差はあるにせよ、同じようなことを感じていたらしい。筆者、タイタニックは観ていないので何とも言えないが。
いやはや、「時計の着脱」の意味づけについてもアイクさんに聞いてみたい気がするが、いや、でも、なにもシャイニングとかタイタニックにしなくとも、十分締まった見応えのある上演だったと、筆者は思ってるんですよ。そこら辺、どうですか?

0 件のコメント: