2016年3月7日月曜日

The Mother

13/02/2016 19:30 @Tricycle

同じ作者による昨年の姉妹作品 The Fatherは大ヒットとなって、ウェストエンドでも再度上演されている。
The Fatherもかなり質の高い舞台だったのだけれど、
http://tokyofringeaddict.blogspot.co.uk/2015/06/the-father.html

このThe Motherも相当の出来だった。
観た順番はThe Fatherの方が先だけれど、書かれたのはThe Motherが先。おそらくフランスでの上演も先。

若年性のアルツハイマーを患った女性と、その家族の話。
結婚して25年経つ40代後半の夫婦、子供2人がちょうど親離れしたところ、という設定。
息子がちょっとマザコン気味で、母親からしても「娘よりも息子の方が可愛い」っていう、そっちはありがちな設定かも。

が、The Fatherと同様非常に戯曲として良く出来ているのは、
本人の認識と家族に見えていることと客観的事実、の3つが、ほぼ説明書き無しで舞台上に乗って、芝居が進行していくこと。
もちろん観客は混乱するのだけれど、
視点の変化に伴って「事実」や「役柄」や「記憶」が混濁する、そして、「時間の経過」がロジカルに流れなくなっていく中で、
「病状の進行」だけは一つの確固とした軸として残り続ける。
その残酷さが、実は、むしろ、
「あぁ、若くしてアルツハイマーって、お気の毒で家族も大変よねー」っていう視点から観客を引き剥がし、
「これはいつかみんなに起きることだ」ということを想起させるのだ。
記憶や時間が混濁するのだから、舞台に載っている「40代夫婦」は、実はもう70代や80代かもしれないし、
子供に見えているものは孫かもしれない。

ツレはずっと、「この夫として振る舞っているように見える男性は、ひょっとすると、ちらっと言及されている長男かもしれない」
と思っていたようだ。
なるほど。そういう風に見えても、実はおかしくない。

種明かしが無いと不安な人・不満な人には勧めない。正解の無い世界を描く作品に触れて、人生に正解が無いこと、でも、終わりは必ず来ることを意識することに耐えられる方には強くお勧めする。そういう芝居だった。

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