02/10/2010 ソワレ
黒川さんの「ハルメリ」を西村和宏プロデュースで拝見した時も素晴しくバランスの良いプロダクションで、今回の西村演出もかなり期待できるんじゃないかなとは思っていた。その期待を全く裏切らないバランスの取れた、しかも伸び伸びとして力みやじっとり感のない舞台。堪能した。
有体に言えば「早織の一生」なんだけれど、でも、冒頭登場する車椅子の老いた早織の記憶が混濁しているのか、それとも人生のどこかで過去あるいは未来を妄想する早織がいて、その妄想が混線しているのか、いずれにせよ、島田曜蔵が歌う流行り歌でつながれる複数のシーンは、時制が狂い、記憶が混線して、首尾一貫した世界を形作っていない。それは戯曲の中で指定されているものなのか、演出の力によるものか、観客の妄想の強度に依るものなのか、そんなことはどうでもよい。要は、そうした混濁した焦点が絶えずずれていく世界が、セットの転換のない一つの舞台の中で、捩じれながら、揺れながら、「そういうもの」として一気に提示されることの快楽が重要なのだ。
惜しむらくは、後半の夫とのシーン、甥っ子とのシーンではそうした「記憶の混濁」が影を潜め、夫・甥っ子も平板なイメージに陥りがちだったこと。「混濁」しない場所では「リアルっぽい解像度」が求められてしんどくなってしまう。もう少し戯曲を書き込めばこの問題は解決されるように思われる。もっと完成度が上がれば、春風舎からもっと広い場所に出して、もっと多くの人々に楽しんでもらえて当然な作品に仕上がると思うんだけどな。どうだろう?
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