2017年4月22日土曜日

Wish List

04/02/2017 15:00 @Royal Court Theatre, Upstairs

若手劇作家にコミッションを出して新作上演の機会を与え、次世代の劇作家を育てる方針を売りにしているRoyal Court。
今回観に行ったのはKatherine Soperによる"Wish List"。

Soperは20代半ば、ケンブリッジ出身の新進劇作家で、この"Wish List"はマンチェスターのRoyal Exchangeとの共同制作作品。
2015年に賞を取り、2016年にマンチェスターで初演。今回のロンドン公演に至っている。

メディアのレビューでは、
「引きこもりの弟と、バイトで自分と弟の生活費をかつかつ稼ぐ姉、それを取り巻く人々の、心の交流を描く作品」
とあって、ちょっと心配してたんである。ありきたりのハートウォーミングストーリー? 社会告発アジ芝居?

心配無用だった。余計な自己主張をしない、けれんのない、極々質素な造りの作品の中には、筆者が芝居小屋で観たいものがたくさん詰まっていた。

この芝居で筆者が最も美しいと感じたシーンの一つは、姉が職場の同僚とパブで話しているときに、不意に、堰を切ったように天文学についての情熱が噴き出す場面。渇いた日常の中から不意に驚くべき色彩が飛び出してくる瞬間は、筆者が劇場に行きたいと思う理由の中で最も重要なものの一つで、筆者は、この先何年経とうと、繰り返し、あの、突如きらめきを顕すまばゆい光を思い起こすだろう。

それを聞く同僚は、家族との葛藤を抱えつつも、如才なく、自分の行きたい方向へと環境をマネージできる人間として描かれている。その意味で彼はティピカルには「劇的」ではないのだけれど、実は、「劇的でない人」が舞台に乗っているということはとても大事で、同僚役の若い役者は、その役割を十二分に理解した、素晴らしい演技を見せる。

一方で、引きこもりの弟である。髪型にとりつかれて社会へのとりつくしまを無くしてしまったように思われる弟ではあるけれども、彼の周囲の、とっちらかった原色の絵の具が生硬にぶちまけられたような暮らしの中から、ラスト、すーっと、白色光が一筋差し込んで、空間が凪ぐ。それもとても美しかった。思わせぶりの感動的な台詞や音楽や後光が一切無かったのも好もしかった。希望というものが目に見える瞬間があるとすると、それは、思わせぶりの中にではなく、目を凝らさないと一瞬で消えてしまう一筋の光の中にある。その瞬間をきちんと舞台に載せてくれた作者・演出・スタッフ・役者に、心から感謝する。

ついでに言うと、この、「裂け目」と「日常」の行ったり来たりは、実は同じ日に同じ劇場の別の階で上演されていたCaryl ChurchillのEscaped Aloneでは、もっと直截に、暴力的に提示されていて、かつ、素晴らしい芝居で、だから、この日、この二つの芝居が同時に上演されていたRoyal Courtは、またとないほど幸福な時間を迎えていたはずで、そこに居合わせた筆者もとても幸福なときに居合わせた、ということになる。それは、芝居がはねた後にバーで水を飲んでいたSoperが、「あ、Carylが帰っていくよ!」と、その偉大な劇作家の後ろ姿を指して言ったときにも、ちょっとだけ感じたことではある。

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