2016年6月14日火曜日

+51 アビアシオン・サンボルハ

28/05/2016 18:00 @Les Brigittines (Kunstenfestivaldesarts)

岡崎藝術座のこの作品、とても好きで、今回はSTスポット、日本橋のスタジオに続いて3度目。今回はブリュッセル、クンステンフェスティバルで。何度観てもやはり好きな芝居。
原色の床から大村わたるさんが起き上がる感じが、Dire StraitsのMoney for Nothingの登場人物がぺらっと立ち上がる感じに似ていて、だから、
この芝居を観る直前の僕の脳内には毎回Money for Nothingの無意味に大仰なイントロが渦巻いていて、そこから無音の舞台が始まる(なので、あの有名なギターリフはいつもお預けだ)。

舞台の上では東京から沖縄へ、そこからリマへと場所が動いていくのだけれど、この座組も横浜から九州、東京、東北、北海道、オーストラリア、ベルギーへと移動していて、
ああ、この座組はいったい合わせてどれくらい移動していることになるのだろうかと、ぼんやり考える。
どこに立っていようと大村わたるの身体はしなやかで自由に動き、小野正彦はその空間に鉈で殴り込みをかけ、児玉磨利のやや前のめり重心、腰の重い感じが、大村わたるがぺらーっとどこかに飛んでいくのをピンを一本打ち込んで押さえているようにも見える。

周囲の観客はもちろんベルギーの方が大多数だったけれども、東京での佐野磧との出会いや、ペルーとの距離感、あるいは左翼演劇と現代との距離感にはついて行けても、「沖縄」という場所にはピンときていないように思われた。「場所の移動」に関する芝居であるだけに、あの、東京と沖縄の距離感が共有できないのは痛い。

最後のシーン、大村わたると小野正彦が上手の客席脇を通って退場していく時に、その上半身が映画館でビッグスクリーンを観ているかのように僕の視界の右半分を大きく覆って、そのまま暗転して終わる、と、毎回、そういう風に記憶を曲げて覚えてしまうのだけれど、今回もまた、大村わたるがいなくなった後に、本当のラストシーンが出てきて、実は、驚いてしまった。そして、そのラストシーンでのフレームの嵌め方が、今回のブリュッセルでの公演では最も客席に迫ってきた気がする。単純に、これまで観たどの会場と比べても「生活に余裕のある紳士淑女の比率が多かったから」かも知れないが。

そして何ヶ月かするとやっぱり、僕の中でのこの芝居は、大村わたるが上手にはけていって大きく画面の右側から暗転して終わっているに違いない。そして、その先大村わたるがどこに行ったのかを、またぞろ確かめたくなってしまうのだろう。そして劇場の中に、あの、日本橋の倉庫のような事務室にぺらっと横たわる大村わたるを発見して、そこから再び旅に出るのだろう。芝居と一緒に旅を巡るよろこび。こういう気持ちになる芝居って他にない。

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